1年以上前のニュースにはなりますが、ディズニーがメタバース関連の特許(US11210843)を取得したことがレポートされています。ニュースでは権利のスコープなど詳細には触れていないこともあり、個人的関心も相まって特許公報を読んでみました。本記事では、当該特許について概要を解説します。
現役の弁理士むぎが解説します。
US11210843
代表図面
基本情報
発明の名称 | VIRTUAL – WORLD SIMULATOR |
出願人・権利者 | Disney Enterprises , Inc. , |
発明者 | Coffey 他 |
出願番号 | 16 / 929,912 |
登録番号 | US11210843 |
優先日 | ー |
出願日 | 2020/07/15 |
登録日 | 2021/12/28 |
公報リンク | US11210843B1 – Virtual-world simulator – Google Patents |
発明のポイント
請求項1などに基づいて発明のポイントを確認します。理解を容易にするため、用語については実際の記載から適宜変更しています。また、図面に記載されている構成については、図面上の符号を付記しています。
- 投影装置(140)により、実世界のオブジェクト(126aなど)に画像(例えばアバターなど)を投影する
- 追跡装置(102)により、ユーザ(132)の視点を特定する
- 特定された視点の情報に基づいて、投影装置(140)により投影する画像を最適化する
- 投影装置(140)は、ユーザ手持ちの装置(例えばスマートフォン)である
- 追跡装置(102)は、例えばカメラアレイや光センサなどである
要は、ユーザの視点の移動に合わせて、オブジェクトに投影される画像をリアルタイムに最適化する技術です。ユーザの視点の位置に関わらず同じように画像を投影してしまうと違和感が生じてしまう場合があるでしょうから、適宜投影ぶりを調整するといった感じでしょうか。
雑感
ニュースでは「メタバースを物理的な世界に持ち込む」などと説明されており、ある種の説明の上手さにとても感心したのですが、そもそもメタバース関連の特許とは言えないように思います。AR(仮想現実)、或いは、プロジェクションマッピングの類の改良発明といったところではないでしょうか。
また、本特許の出願前から何だかありそうな技術という印象を受けたので、何を以て権利が認められたのか審査経過を確認してみました。どうも最適化の部分のみでは権利として認められなかったため、投影装置がユーザ手持ちの装置=handheld device のみに限定することで権利が認められた模様です。これはすなわち、最適化の方法そのものは同じであっても、例えば固定配置のプロジェクタなどで投影を行う場合には本特許のスコープ外となってしまうことを意味します。比較的回避容易な特許だと思います。最も、アトラクションなどで実装されることを鑑みた場合、ユーザ手持ちの装置による投影でなければ最適なUXを提供できないなんてことであれば有用な特許なのかもしれません。
まとめ
以上、ディズニーのメタバース関連とされた特許について解説しました。若干期待外れなところもありましたが、今後のディズニーのメタバースへの取り組みに期待しています。最近、メタバース部門を解体などといった不穏なニュースもでていますが、頑張って欲しいです。
なお、発明が権利付与されるためには、新規性など一定の要件が求められます。特許が取り上げられるニュースの理解が深まると思いますので、以下の記事も合わせてご覧いただければ幸いです。